私は、先日あるお宅の法事にお参り致しました。読経、法話と滞りなく法要が営まれた後、私は部屋の隅にあった「陰膳(かげぜん)」を見つけました。話に聞いたことはありましたが、実際に観たのは初めてでした。
確か「陰膳」とは、長旅に出た人や戦争へ行っている人など、長期間家を空けている人のために、残った家族が食卓を囲む時に、その人のお箸とご飯を食卓に並べ、その人の健康や幸いを願い一緒に食事をすること。もしくは、実家の亡き両親家族のためにこっそり供えることです。
私は、そこに祀ってあった写真を指し、その家のおばぁちゃんに、
「この人はどなたですか?」と尋ねると、
おばあちゃんは、「私の父と母です」といわれるのです。
「早くに父を亡くした母は、私たち7人兄弟のため、毎日夜遅くまで働き、貧乏しながらも私たちを育ててくれました。しかし、そんな母も昨年亡くなりました。私はこの家に嫁いだ身ですから、実家の両親をこの家で祀ることは、本当はいけないのかもしれません。和尚さんに叱られるかもしれませんが、私の気持ちとして母の供養をしてあげたくて、部屋の隅に両親の遺影を祀りいつもお供えをしているのです。」といわれるのです。
おばあちゃんは、亡き両親から受けたご恩を感じ、お膳を供え、手を合わせ、毎日冥福を祈られているのです。
私は、大切なのは形ばかりにこだわるのではなく、素直に感謝の気持ちでお供えすることが、何よりの御馳走だと思いました。貪りのない素直な心が施しの行いとなり、真の供養になるのだなと感じました。
きっと、おばあちゃんのその思いが通じ、亡き両親に護られているから、おばぁちゃんは、いつも幸せそうに笑っていらっしゃるのだなと思いました。
感謝の念を持ち誰かを思うこと、それは、亡き人へも手向けるができ、自ずと己に還ってくるのだなと思いました。
少林寺20世 清涼 晃輝(せいりょう こうき)
1979(昭和54)年生まれ
豊川稲荷(妙厳寺)
愛知学院大学卒業
㈱坪井屋佛檀店
大本山永平寺
動物供養総本山 長楽寺動物霊園などで修行
平成21年 少林寺、蓮光寺(奈義町)住職就任
曹洞宗 圓通閣 澤龍山 少林寺
(美作西國三十三観音十一番札所)
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